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第258話 

「私が手伝うわね」

松本若子は藤沢修のボタンを外そうとした。

「いやだ」藤沢修は彼女の手を握り、きっぱりとした表情で言った。「こんなちょっとしたことくらい、俺一人でできる」

彼は苦労しながら手を上げ、ボタンに手をかけたが、指は震え、一つも外せないまま力尽きて手を下ろしてしまった。彼は再び頑張ろうとしたが、うまくいかず、無力そうに手を垂らした。

彼は歯を食いしばり、もう一度意地を張って手を上げ、ボタンを外そうとした。

松本若子はその様子を見て心が痛み、彼の手を急いで握った。「私がやるわよ。今は怪我をしてるんだから、解けなくても当然よ。恥ずかしがらないで。私だって、あなたのいろんな姿を見てきたんだから」

彼らは長年の付き合いだし、結婚してからはお互いの最もプライベートな部分も見てきた。だから、こんな場面で遠慮する必要はなかった。

藤沢修は軽くため息をつき、自分の手を放して、無力に顔を横に向け、少しばかりの無念を表情に浮かべた。

松本若子の胸は少し締めつけられるような思いで、彼を抱きしめて慰めたい気持ちが込み上げた。

藤沢修のその姿は、無力な子供のようで、ボタンさえも解けない様子があまりに哀れに見えた。

松本若子はそっと彼の体をこちらに向け、慎重に一つ一つ、彼のシャツのボタンを外していった。

二人はお互いのすべてを見てきたはずだが、それでも彼の体を目にするたびに、彼女の顔は少し赤くなってしまう。

シャツの下には鍛えられた筋肉があり、力強さがみなぎっている。

藤沢修はどれほど忙しくても、決してトレーニングを欠かさない。その体は黄金比とも言えるバランスで、どこを取っても完璧だった。強迫性障害がある人ですら、この体には満足するだろう。

彼の胸は大きく上下し、熱い呼吸が彼女の額にかかり、松本若子の呼吸も乱れ、頬が真っ赤に燃えるようだった。

彼女は慎重に彼のシャツを脱がせ、それをそっと脇に置いた。

その健壮な体には包帯が巻かれており、少し野性味のあるセクシーさが漂っていた。男の体に傷があると、かえって一層男らしさが引き立つこともあるのだ。

彼からは熱が放たれ、どこか熱っぽく禁欲的な雰囲気が漂っていた。

松本若子は深く息を吸い、彼から視線をそらし、心臓がドキドキと激しく跳ねた。

「さあ、もう食べられるわよ。早くしないとご飯が冷めちゃうから」

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